茜子の日記

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もう一度だけ

お題「もう一度行きたい場所」

 

 

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私が生まれてからもう22年という月日が流れた。私はもう22歳になって、周りもみんな歳をとった。昔は小さかった私と走りながら遊んでくれたお婆ちゃんは腰が曲がって走ることなんて出来なくなった。お爺ちゃんは心臓にペースメーカーが入った。親戚中でも1番最初に生まれた子供だった私の遊び相手はいつも大人か親戚家の犬で、子犬だった頃から知っていた犬たちも2匹が年老いて死んでしまった。犬は人よりはやく年老いてしまうことを、まだまだ育つ自分の成長と彼らの死を重ね合わせて実感した。

 

 

 

保育園に通っていた頃の春の匂いが忘れられない。今の半分ほどの身長で野原を駆け回り花を摘んだ。今よりももっと地面が、花が、近かった。中学や高校に入ると、自転車で夕方の空を駆け抜けることが増えた。明日も明後日も見れるはずの夕陽にいつも見惚れていた。誰と何を喋ったのか、いつどこに行ったのか、そんなことは全く覚えていないけれど、ひとりで感じた空気の冷たさや学校終わりの眠い夕方はふとした瞬間に蘇る。どれも大切で二度と戻れない日々たち。22年という決して短くはない時間の、限られた記憶の隙間を埋めてくれた私の日常。思い出の中には会いたくても会えないあの頃の自分がいる。

 

 

 

7月17日になる度にみんなは私を祝ってくれる。1年で一番嬉しいイベント。誕生日はその本人よりも両親のための日であるということに恥ずかしながら22歳になるまで気づかなかった。両親は7月17日がくる度に私が生まれた瞬間のことを思い出し、今までの年月を振り返り思い出に浸る。私が知らない私の生まれた瞬間、物心がつくまでの出来事…両親は全ての思い出を辿る。私は祝ってくれる人々へ感謝をし、ただ歳をひとつ数える。過去を振り返るよりも新しい歳の幕開けに胸を踊らせ抱負を語ってきた。親はその横でどれほど感慨深かっただろうか、自分が産んで育てた子供がこんなに大きくなったのだから。

 

 

 

 

成長期が終わり成人を迎え、社会に出る年頃になって周りを見渡すと私の大切な人々はみんな年老いていた。彼らの姿はもう戻れない日々を思わせた。とても遠くに来てしまった気がした。過去からどんどん遠ざかっていく感覚が怖くなった。もうどの時間にも、どの自分にも戻れない。過去の自分はもしかしたらどこか違う時空で今も存在しているのではないか。今もたんぽぽの周りをお婆ちゃんと走り回ったり、夏の終わる夕方を自転車で駆け抜けているのではないか。掴もうとしても掴めないまま時が経つことが恐ろしく、もう二度と戻れない月日を想って私は泣いた。

 

 

もう一度行きたい、あの場所へ。